目覚ましが鳴る。7時45分だ。
シンジはもう朝食の準備にかかっている。
サキを起こす事にした。まだ寝ている。僕には分かる。
ドア開放。
「…サキ…朝。起きて」
ゆさゆさ。
ゆさゆさゆさ。
ゆさゆさゆさゆさ。
「はぅう…」
「…む…」
ゆさゆさゆさゆさゆさ。
ゆさゆさゆさゆさゆさゆさ。
ゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさ。
「…うぅ、あぅ…もう朝ぁ?」
お、起きた。
茶褐色のショートカットにくりくり黒目と小麦の肌…
つまり、昨日から妹になった少女サキである。
「…おはよ、サキ」
「おはよ、コウにぃ…あれ、シンジにぃは?」
「…朝食、作ってる」
「あぅ、はやぁ…」
…朝は苦手、か?
あ、違う。
「…着替えて。今日から…学校」
「あぅう、まだ寝てたいのにぃ」
「…夜更かし、するから…」
お、サキがビクッと震えた。
「なんで、わかっ…」
「…んー…なんとなく…」
おーおー、震えちゃって。
「あぅ…コウにぃ、怒ってる?」
まさか。
「…ん…怒って、無いよ…許したげる」
「ありがとコウにぃ!」
「わ」
抱きつくサキ。倒れる僕。開く扉。入ってくるシンジ。
「コウ、ご飯でき…!?」
「…あ」
「シンジにぃ?おはよ!」
…今朝も平和だ。

 

X-Evangelion
=闇に消えるセカイ=


第参話 鳴らない、電話
- Three transfers -

 

「いっただっきまーっす!」
「…いただきます」
「…どう?」
「…ん…おいしい」
「おいしいっ!シンジにぃも料理上手だね!!」
「ははは、ありがとサキちゃん」
起床直後の『サキのコウにぃ押し倒し事件』はサキがシンジにも抱きついて『おはよ』と言った事に因り彼の誤解がとけて無事解決。
現在時刻は7時50分。あの後二人で『…人に、抱きつくの…良くない』『いきなり飛び付かない方が良いと思うよ』と教えたのだ。
「…シンジ、第壱中って…どこ?」
「あ、サキの学校もどこぉ?」
「ミサトさんが送ってくれるって。車で」
「…あの…ルノーで…?」
「…ミサトさんが?」
「…うん」
う、迂濶…!
そうだ、ルノーで送られるんだった…。
…安全運転要求しよう。

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「突然ですが、転校生を紹介します」
担任、根府川先生の声。同時にざわめく教室。
「…シンジ…緊張?」
「う…うん」
…ガチガチだな。
「だいじょぶ…フォロー、する…自信、持って」
「…う…うん…」
その時、扉は開いた。
「二人共、入ってください」
「…先に行く」
「うぅ、うん…」
ゆっくり、ゆっくり、進む。
シンジと共に扉を越えた瞬間…

 とんでもない叫び。

主に女子がぎゃーぎゃーわーぎゃーと五月蝿い教室だったが、クラス委員の起動で…
「皆静かにしてっ!」
…静かになった。
流石洞木ヒカリ。
「では…自己紹介、といきましょうか」
静まる。水を打ったような静寂、と言う奴だろうか?チョークを受け取り、黒板に名前を書く。転校、という奴には馴れているのだ。
渚…コウ、っと。危ない危ない、深海薫って書きそうになった。
シンジも書く。…字、結構巧いな…
「では…シンジ君、君からお願いします」
「…碇、シンジです。長野から来ました…宜しくお願いします」
ふむ、基本だな。
つー訳で、こっちも…
「渚、コウ…宜しく」
基本のキだけでシンプルに。
「それでは…彼処の席に」
座ってください、と根府川先生が言いかけた時…
「すんません、遅れました!」
鈴原トウジ登場。
「…おはよ、トウジ」
「なんや…?コウ!?」
「ほう、知り合いですか?」
「引っ越し、直後に…少し…シンジ、トウジ…座ろ」
「う、うん」
「お、おう」

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只今一時限目、転校一発目から数学である。
…もっとも、数学教師たる根府川先生は…セカンドインパクトの昔話を始めていたが。
「その頃私は―――」
はいはいワカリマシタ。
そう思った時、チャットソフトのウィンドウにこんな文。
『パイロットって言うのはホント? Y/N<碇君&渚君』
…ご丁寧にもイエスかノーかで固定してやがる。
仕方ない。シンジに相談―――
『YES』
…あのバカ…
しかもこれ教室全体対象のチャットだっつーのに…
当然、シンジに(チャットの外で)質問集中。
そしてクラス委員はあまりのパワーに止められず…
しかし、これで僕の方は追及されな―――
『渚君は?』
―――撤回。追及された。
『…機密。話せない』
つまり、僕もパイロットですよ、と。

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で、休み時間も追及されそうになったシンジをトウジとケンスケの支援で救出。今は昼休みである。
つまり、屋上でシンジ特製弁当を頬張る訳だ。
「うまそうな弁当やのぉ…誰が作ったんや?」
もぐもぐ…こっくん。
「…シンジ…」
「へ?」
へ?じゃねぇよケンスケ。
「…シンジが…作った」
「なんやてっ!?ホンマか碇っ!?」
「え、あ、う、うん」
そこで狼狽するか。
「なんじゃ、大変やのぉ…」
「…親、いないから…仕方ない」
「え…どうされたんだ?」
…食いついてきたか。
仕方ない、葛城課長作イイワケ用データ使うか。
「…死んだ…らしい」
「え…あ、わ、悪ぃ!」
「『らしい』?なんや、はっきりせんなぁ」
二者二様の反応。
「…気にしないで…『らしい』って、言うのは…誘拐、されてた…から」
場が音を立てて凍った。

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そして放課後。
『お詫びに』と第三新東京市の名所案内をしてくれた二人と別れ、家へ向かう。
…両腕にサキへのお土産を抱えて。
戦闘時の疲労を考慮してくれたのか、今日、予定は何も無い。
「…シンジ…」
「…何?コウ…」
「…疲れた…」
「…僕も…」
当然である。二人のおかげでCDショップなんかは分かったものの、散々歩いたのだ。
「…夕飯…どうしよ…?」
「…ご飯は予約で炊けてるだろうけど…卵とほうれん草とベーコン位しかなかったよ?」
「…ん…十分…でも…朝の分」
「あ…そっか」
サキ、はじめてのおつかい決定。

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時は早いもの、第一次直上会戦…サキエル戦から三週間が経った。第四使徒襲来の日だ。
今日の朝飯当番は僕。メニューはBLTサンドならぬBLTチャーハンだ。自信作なコレ、トマトの扱いが破滅的にムズい。シンジ曰く『こんなの普通作れないよ』。
弁当(サンドイッチ。防腐シートも忘れない)も三つ作った。サキは給食。つまり一つはレイの分。
…あ、でも昼前にシャムシェルだっけ?駄目じゃん。昼の天使だけに昼襲来ですか。
で、教室に着く訳だ。
あ、レイ発見。しかも包帯ぐるぐる巻きじゃない。
教室には他に十五人程。よし、『第壱中学校ジャイアント・インパクト作戦』開始!
…ってもただ挨拶するだけだけどネ。
「…レイ…おはよ」
顔を上げるレイ。僕だと理解したらしい。
「…何故貴方がここに居るの?」
「…僕も…14…中学生、だから」
「…そう…お、おはよう、渚君」
「ん…コウで、良いよ…おはよ」
あ、固唾を飲んでた方々が固まった。
再起動まであと推定3秒、2、1…

 驚愕の叫びが響いた。

うげ、耳がキンキンする…
シンジも耳押さえてうずくまってるしさぁ…
まあ、仕方ないか。
「レイ…はい、これ」
「…何?」
「きょーの…弁当」
「…何故…私に?」
へ?
「…レイの分、作ってきた…から…」
ま、しばらくのんびりしましょ。

:::::::::::::::

「!!」
突如、PDAに着信。
「…先生…避難を。僕と、シンジと、レイ…ネルフから、非常召集…行こ」
「う、うん」
「分かったわ…」
三人で駆け出す。
校門には保安部の車。うっわ、黒塗りだ!
「…お疲れ様」
「お、お疲れ様」
「…?」
レイは何故『お疲れ様』を言うか分からない模様。
「飛ばします。掴まって下さい!」
…葛城ルノーより速いわ。

:::::::::::::::

「…いか?」
うわ、マジでイカだ。
「やっぱそう見えるわよね?」
葛城課長。セリフの割に声音がマジっつーか憎悪滴ってるっつーか。
「…眼…」
ボケかましてみる。
「へ?」
「…眼が…かわいー」
皆さん一斉にコケます。
「…良く…分からないわ」
唯一コケなかったレイ。
…何故か悲しげ。
「コウって…不思議な感性持ってるよね」
シンジ、それは僕を貶めてるのかい?
「き、緊張感の欠片も無いわね…」
酷いやミサトさん。緊張ほぐしにボケたのにさ。
「くく…面白いこと言ってくれるわね」
唯一笑ってる赤木博士。
緊張が抜けたらしいオペレーターズ。
ブリーフィングは、こうして始まった。
「…早くブリーフィング始めましょうよ。いや、無視されて寂しいとかそんなんじゃないけどさ」
失笑。

:::::::::::::::

『じゃ、行くわよ。作戦通り、シンちゃんがパレットライフルで斉射…一通り撃って。その後は指示通りに』
おいおい、適当だな…
『はい』
「…ミサトさん」
『何?』
お、軍人モード。
「パレット、ライフル…弾、何?」
『劣化ウランよ…それがどうかした?』
やっぱそうか。
「…劣化ウラン弾…粉塵一杯…的が見えない…役立たず?」
…場が凍った。

:::::::::::::::

急遽作戦はパレットライフルで牽制、二本に増やしたプログナイフで殲滅となった。
『では…良いわね?』
『はい』
「…大…丈夫」
『Evangelion初号機、発進!』
初号機、シンジが射出される。
『―――続いてEvangelion零式、発進!』
リニアレールをリフトが駆け上がる刹那、願う声が聞こえた―――気が、した。
あくまで、『気がした』、だ。何故なら―――
『コウ君…死なないで…!』
ソレは、綾波レイの声だったから。

:::::::::::::::

レイは、自問していた。
(何故…私は此処に居るの?)
いまだ怪我の治らぬ体ではエヴァには乗れず、かといって発令所でする事も無い。
つまり、シェルターに居るべき体なのだ。
なのに、何故…
(何故…何故、私は発令所に居るの?)
自らに問い続ける。
何故居るのだ、と。
何故、何故、何故―――?
「―――続いてEvangelion零式、発進!」
ソノ声が響いた時、
「…!」
幼い心が、本能も理性も無視して発声を命じた。
「コウ君…死なないで…!」
…その台詞は、場が三度凍りつくのに一役買う事となる。
(これは…私の、心…?コウ君に死なないで欲しい…?)

:::::::::::::::

『さ、最終拘束具解除。エヴァ初号機、エヴァ零式リフト・オフ!』
「ッ!」
どもるミサトの声に我に返ったシンジは、あわてて兵装ビルのパレット・ライフルを手にする。
『…零式、前進…シンジ、援護』
そうだ。レイのあんな叫びに驚いている暇は…
「う、わ、分かった」
『落ち着いて!まずはインダクション・モードにっ!!』
「は、はいッ!」
レバーを握り、初号機をインダクション・モードに入れる。
「目標をセンターに入れて…スイッチっ!」
劣化ウラン弾が十発、二十発…吐き出される。
『零式、敵A.T.フィールドを中和!』
『打ち方止め!シンちゃん突撃!』
「はいっ!!」
ウェポンラックからプログナイフを引き抜き、突っ込む。無論、ライフルは破棄。
『…シンジ、右』
「うわあああああっ!」
『シンちゃん!?』
突如の…鞭。光の鞭。
初号機は、投げられた。
…零式へ向けて。
『…う、わ』

:::::::::::::::

ぐしゃ。
『コウ君!』
「…痛い…」
『良かった…大丈夫そうだね』
「…うん…大、丈夫」
立たせようとして気付く。
「…トウジ、ケンスケ…?」
それに…
「…ケーブル…切れた」
『コウ君!零式は現状でホールド、二人をプラグの中へ!!』
『越権行為よ!葛城一…』
さっさとプラグを出す。
「…そこの二人…乗って…死ぬよ」
「コウ!?」
「早く」
二人が飛び乗る。
よし…
「…LCL充填…シンクロ、リスタート」
『シンクロ確認…嘘っ!?シンクロ率変化無し、ハーモニクス±0!!』
『コウ君下がって!そこの回収スポットから…』
「に、逃げろ言うとるで、コウ!」
「…うん…ミサトさん」
『何?』
「…ミサイルか何か…援護を。その間に」
『分かったわ…日向君!』
『まってください…射撃可能兵装ビルが4、内2がマイクロミサイル』

:::::::::::::::

メインモニターに使徒と対峙する二機が映る。
「カウント・スリーで行くわよ」
『は、はいッ!』
『…りょーかい』
鞭をかわしながら答える二人。上手く下がれるだろうか?
「3」
ランチャーがせりだす。
「2」
巨砲が狙い澄ます。
「1」
『…!』
使徒の鞭が…増えた!?
「てぇっ!」
間に合わない…!
「…!!」
今のレイに出来るのは、ただ祈る事だけだった。
死なないで、と。

:::::::::::::::

「う…ぐ…あ」
<コウ!>
「コウッ!?」
『コウ君!』
「コウ!お前…」
『コウッ!!』
くらっちまった…無様。
鞭が増えるなんて知ってたのに…
あーあ、腹が…大穴あいてらぁ。
『零式、腹部破損!パイロットの生命維持に問題発生!!』
『MAGIの判定は大破!パイロットはバイタル低下、危険です!!』
『作戦中止!エントリープラグ強制射出!!』
発令所、大騒ぎだわ。
<コウ…嫌だ!また一人になんてなりたくない!!>
「ノ…ル、ン…」
『駄目です、信号受け付けません!完全に制御不能!!』
『そんな…コウ君!コウ君ーッ!!』
『…!シンクロ率急激に上昇!!180、250…』
<コウ…絶対、助けるっ!!>

:::::::::::::::

鞭を六本に増やすと言う『自己進化』をやらかした使徒は、まず零式を突き刺した。
黒色に輝く巨人と、それを突き刺した異形のもの。
紫の巨人―――初号機―――が黒の巨人―――零式―――を助けようとナイフを振るうが、残った4本の鞭に右腕ごと落とされる。
内部電源は、もうほぼ無い。
『う…うわあああああ!』
「初号機、右腕部―――」
「初号機内部電源、残り1分27秒!」
『コウッ!?』
『消えた…?』
『っ…どないせぇちゅうねん!』
「シンジ君!」
その報告は、突然発令所を揺るがした。
「…!零式、再起動!!」
「なんですって?」
「まさか…暴走!?」
咆哮が、響いた。

―――ゥゥウォオォオォオォ―――!

:::::::::::::::

「…うぅ…」
「…コウ君?」
「コウにぃ!」
「…?」
あれ、この声…シンジでもミサトさんでも無い…いや、明らかに…
「…レ、イ…?」
「…そうよ」
「…サ、キ…?」
「…コウにぃぃ…!」
コウにぃ死んじゃうかと思ったよぉコウにぃのばかぁ、と泣きじゃくるサキ。心なしかレイも生還を喜んでいるように見える。
あー、しかし…何があったの?
「ぐす、ひぐ…」
「…零式が暴走したわ」
「…」
「再起動して、腹部を復元して…取り込んだわ」
まさか。
「…何を?」
「使徒を」
…ノルン…お前、なにしてんだよ。
「…どうやって?」
「口から」
「…使徒…食べた?」
「そうとも言えるわ。そしてそのあと、初号機が止めた」
…はぁ。イレギュラーだ。
「…僕、は」
「溶けてたわ」
「…あ、そう」
あ、あっさりした返答…
くそぅ、からかってやれ!
「…良かった…」
「…?」
「…また…レイに、会えて…」
さて、どう反応する?
「…また会えて良かった…再開を喜ぶ言葉…相手に好意をもつ人の言葉…そう、コウ君は私に好意を持っているのね…」
出た連想ゲーム!
「…うん、レイ…好きだよ」
あうぅ、恥ずかしい…
「…ありがとう」
「うー、コウにぃ…」
あ、サキ忘れてた。
「…サキ…」
「…サキだってコウにぃ好きだもん…」
へ?
「…サキ?」
「だからコウにぃ…」

 ブ ラ コ ン か 。
  ブ ラ コ ン な の か 。
「…僕、サキも…大切、だから…可愛い、妹…だもん」
なでなで。
「コウにぃ…えへへ」
抱きつくサキ。
…平和だなぁ。

:::::::::::::::

「…そーりー、ぱーどん?」
二人が出てった後、赤木博士が来た。零式に関して。
「つまり、零式には永久機関が発現したの」
「…でも…異常が?」
「ええ、原因解析はしてるんだけど…異常に発熱するわ。連続稼働は今のところ23分が限界ね」
…、まぢ?たったそんだけ?
「…限界…越えたら?」
「ドカン。永久機関の膨大なエネルギーが解放されるわ」

「しばらくは冷却スリット増設と後付け空冷フィンで頑張るけど…難しいわね」

:::::::::::::::

そしてシンジだ。零式を止めた後手伝いに回されたらしい。
「コウ…大丈夫?」
沈痛な面持ちのシンジ。
…僕、生きてるよ?
「…ありがと、シンジ…」
取り敢えず礼。…ああ、空気重い…
「零式…どう、壊れた?」
「大破…だって。あの後腹部の傷は自己修復したみたいだけど、機械とか装甲は大方…」
あらら、酷いな…
「…そう…ありがと、シンジ」
「気にしなくて、良いよ。僕、ただ…」
「…止めた、だけ?」
遮る。家出は困るもん。
「…だけ…じゃ、無いよ」
「…」
「…あのまま、だったら…僕…いや…第三、新東京市…消えた」
「…え?」
食いついた。
「…リツコさん…言ってた。零式に、永久機関…発現、したって…」
「…でも、それって」
良いことじゃないかって?
「…零式…異常に、発熱してた…らしい」
「それって…!」
気づいた?
「…発熱量、から…みて、稼働…23分」
「…越えたら…?」
「…どっかん…」
「…え…えぇっ!?」
あ、面白い反応。
「…永久、機関…膨大な…エネルギー、解放…」
「もしかして…僕、とんでもない重要な事…した?」
「…うん、そう…」

:::::::::::::::

「コンフォート17…これね」
レイは、コンフォート17前にいた。
先刻、リツコからこちらに移り住むよう言われたのだ。
『レイ、コンフォート17の805号室に移りなさい。前のマンションは壊れたわ』
『はい』
『あ、あと新しい服とカードキーよ。前のはマンションと一緒にダメになったでしょうからね』
『はい』
…あまり噛み合わない会話によって。
「…805。ここね」
カードキーを通す。
「…?」
何故明かりが?
首をかしげるレイ。
「…うぅ…ぐす、コウにぃ…」
この声。
「…サキ?」
「ひぐ…ふぇ…?」
そして、目が合う。
「…レ、イ…?レイねぇ?」
「…そうよ」
「ふぇ…レイねぇ…レイねぇぇ…!」
ぺたぺたと走って飛びつくサキ。
「…シンジにぃはお部屋でぐったりだし…コウにぃいないし…ひぐ、ひぐ…ふぇぇ」
新居は前途多難だった。