「貴方の体、生命エネルギーがもうほとんど無いの」
「…え」
生命エネルギー。
文字通り個体生命の維持にもっとも重要なエネルギーである。
生命には初めからこのエネルギーが宿っており、このエネルギーを消費することでA.T.フィールドや臓器を維持し、個体としての生命を維持する。そして、それによって肉体がただの物体に還っても形が維持されるのだ。
これが、生命のメカニズム。
使徒(実際はヒトもそうだがまあ便宜上)がああも簡単に空飛んだり、自己修復出来たり、無茶苦茶な攻撃が出来たりするのは、コアの"命の実"───S2機関から、生命エネルギーが供給されているから。
これによって、飛行やレーザー、果ては自爆…あんな荒業が出来るのである。
そして、A.T.フィールドのエネルギー供給面も解決する。
逆に言うなら、S2機関が停止した使徒は直ぐに死ぬ。エネルギー不足である。
というのも、使徒はS2機関の稼働を前提にエネルギーを消費しており、要は消費が激し過ぎるのだ。
ちなみに、待機中のエヴァがケイジのL,C,L,プール内に居るのはここらへんが原因である。
S2機関を持たないため、L,C,L,から生命エネルギーを供給しているのだ。
…もっとも、冷却材兼緩衝材ともなっている為に、S2機関を持ったとしても外せるものではないが。
その点ヒトは違う。
知恵の実はヒトに知恵と肉体を与えると同時に、生命エネルギーの消費を抑えているのだ。
故に、ヒトは長生きできるのである。
しかし、S2機関を持たないのにあまつさえA.T.フィールドを一時的に強化、位相空間として展開し、更に応用まですれば───当然、エネルギーも無くなる…らしい。焼き付けられた記憶によれば。

しかし僕の書いたX-Evaじゃ、こんな事───!!

「普通の治療ではどうしようもないの。でもね───ネルフなら、なんとかなるのよ」
───握られた。
生殺の一権を。
だが、死ぬわけには───行かない。
「…お願い…します」
「この事は口外無用、トップシークレットよ───地下、L,C,L,プラントへ、私と来て。あそこなら、怪我もまとめて治せるわ」

 

X-Evangelion
=闇に消えるセカイ=

第伍話 レイ、心のむこうに
- What is Rei's heart? -

 

力が満ちていくのを感じる。
目の前を駆け上がる気泡を見遣りながら、オレンジの液体───少々濃度高めのL,C,L,だ───を、息の代わりに吐く。相も変わらず血の味だ。
右足も割と問題無さそうだ。流石使徒の体、と口中に呟いた。
前には赤木博士。
こちらがL,C,L,内に居るせいだろう、声もぼけて聞こえる。
『どう?』
「…りょーこー…です」
濃度こそやや高いものの、かかる圧力はそんなでもない。
元々L,C,L,という奴の比重は水より軽いのだ。必然的に、液圧は小さくなる。
『…そろそろ頃合ね。L,C,L,を排出するわ』
L,C,L,治療用水槽にはハッチが付いており、専用シャワールームと直結である。今回はそこから入った。恐らく、ずっとそうなる。何故か?
水槽表面は特殊ガラス。今は曇っているから外からは見えない。
が、出れば当然裸なのだ。それが理由である。
更に、乾きだしたL,C,L,はベタつくのだ。
『服はランドリーにあるわ。それを着て』
「…はーい」
弁が開かれ、L,C,L,が抜けてゆく。
肺のそれを抜く為、準備しておく事にした。

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シャワーを浴び、体を拭き、服を着込む。
ごていねいに包帯と飲み薬(痛み止めだろうか?)らしき薬の袋まであった。右足に巻き付け、留める。
薬は放って置いた。妙なもん入ってたら面倒だし。
あ、でも、僕はネルフにとって有用な存在な筈。消せないか?
…やっぱ貰っとこう。赤木博士に聞けばいい。『…これ…なに?』って。
…ってあれ?"綾波 レイ様"とか書いてあるし。レイのか。
赤木博士曰く、怪我は貫通銃創。大丈夫だそうだがまあ普通なら全治一ヶ月らしいし包帯巻いときゃアピールにはなるはずだ。雑巾掛けなんかは免除されるな、うん。
ドアを開けた。
「コウ君。シャワー終わったのね」
頷き、問うた。
袋見せて、一言。
「…これ…なに?」
「あら…?…L,C,L,よ」
…はい?
これが、L,C,L,?
「正確には生命エネルギー補給剤、L,E,S,(Life Enelgy Sapplyment)。L,C,L,を元に作った、ネルフ技術開発部技術局1課特製の錠剤型サプリメントよ」
そういえば錠剤の紙袋には"頓服"、"一回1〜2錠"、"特殊薬剤"とスタンプが押されていた。無論、"1"と"2"だけはボールペンで手書きである。
…意外とまあ人間臭い代物だな。
「でも珍しいわね、レイが忘れ物なんて…」
「…僕…持ってく」
「そうね、お願いするわ」

あ、これがコウ君の分よと手渡された袋からは、L,C,L,の匂いが───血の匂いが、しているような気がした。

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「あ、コウ君!」
時間的に微妙だよなぁ、と思いながら再検査を行い、即入院の全治一ヶ月が入院不要の全治一週間となり、事情聴取も済ませた帰り。
生命エネルギーの補給時に本能が千載一遇のチャンスとばかりに必死で自己修復をかけていた体は、風邪すら吹き飛ばしていた。
全治"一週間"と言う数字も、はっきり言って当てにならない。赤木博士曰く、現状から"医学的には"全治一週間。つまり、正しい数字は分かりそうもない。限りなく。
とりあえず、レイがいた=学校終わってるだし、帰ろうとしてた矢先。
「…ミサト、さん?」
「そ。皆の憧れ、ミサトさんよん☆」
憧れてねぇよ。
心中に突っ込んでスルー。すっぱりと。そりゃもうすっぱりと。
「…で?」
「あり、流された…体、もう大丈夫なの?」
やっぱしそこかい。
予想通りな台詞に最早呆れるしかなかったが、それはそれこれはこれ。理由はどうあれ、心配してくれてるのは確かな訳だし。
「…はい」
「そう?良かったわぁ」
はふぅ、と息をつく葛城サン。オーラが暗い。
…なんかさぁ、やっぱこの人ってさ、僕らチルドレンをいわば"対使徒復讐装備"としか見てないよね。
そういえば、僕がシンジ助けた時になんでシンジの護衛が居なかったんだ?
…まだ裏が有るな、こいつは。

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とりあえず、無線LANカードのクライアントプログラムをいじくる。随分前、某サイトで読んだ通りに。
逆アセンブルしたコードをMAGIに即興プログラムに自家製最凶バイナリエディタで解析、検索、置換。
コードと格闘すること15分、プログラム・クラックは完了した。
これでデジタル無線の傍受が可能になる。
後厄介なのはライン入力をどう処理するかだが…
そのまま流せればいいけど───暗号化は確実だよなぁ。
仕方ない、その場で解析しよう。
随分前作ったデジタル暗号解析支援プログラムでやるしかない。
…面倒だけどな。

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作戦はこうだ。
まず敵を誘引。こいつは簡単だ。所謂路地裏───否、山にでも行けばいい。
そして護衛の保安要員sが使う無線を傍受する。敵が組織だっているなら敵の無線も入るだろう。
ここでデジタル暗号解析プログラム"ロキ"の出番だ。暗号化を無理やりにでも外し、内容を盗聴。違法だとかいうツッコミはこの際無しだ。これでMisson Accomplished(作戦成功).
しかし成功したら生還せねば。交戦する羽目になったら…そう、そこが問題だ。
A.T.カノンでは連射が利きそうもない。体も持たない。L,E,S,は一応有るがどこまで使っていいものか。
そこで、はたと思いついた。
ガス・ブローバック・ガン。
本来ならBB弾を使用する(そして対象年齢18歳以上の)競技用ソフトエアガンの一種だが、初速上昇チューンナップ+強装(金属)弾でガラス窓もブチ破るような凶悪極まりない逸品だったはず。それ即ち十分人も殺せてしまうと言う(…)とんでもない"オモチャ"。
強装弾は馬鹿高いし第一違法な品だがそんなものは必要ない。僕にはA.T.フィールドがある。あれを固めてBB弾の形を為せば事足りる。
A.T.カノンがエネルギーを食うのは恐らく銃(むしろ砲?)本体もA.T.フィールドで構成されるから。A.T.フィールドを飛ばす、発射するということから銃、威力の願望から砲、そのイメージから脳が、むしろ本能とか無意識とかが勝手に折衷した品がきっとあれ。
その点ガスガンがあれば弾だけ。恐らく楽だろう。
至上命題だった(かも知れない)A.T.カノンのエネルギー問題。その解答の一つ───"A.T.バレット"構想の出来上がりだった。

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すぅ、っと息を吸い込み、ゆったりと吐き出した。
それがコンフォートのEV前。
EVに乗り込み少々大袈裟な覚悟を決め、なるべく無音で接近。
そして…
「…ただ、いま」
「コウにぃぃ!」
…いきなり飛び付かれるのには慣れない。第一どうして無音接近を探知出来るんだ。
しかも、今日は───それだけではなかった。
「えと、その…ごめん、コウ」
それはいい。
「…気に、しない」と受け流せばいいし実際受け流した。
しかし一番の問題は…
「…」
左半身に抱きつく蒼銀の仔猫でした、まる。

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まあレイについては今度葛城さんぶちのめして済ませるとしよう。ちなみに対抗サキ、大穴シンジだったりするが葛城さんがディープインパクトも真っ青の倍率な上サキもかなりの低倍率。が大穴シンジには実に10000倍位のハズレ確実なオッズだ。うん。
要するに僕的には七割方葛城サンが犯人で二割がサキ、残り一割は暇なとき例によってレイが読んでる本にハークレインでも混じってて実はその影響でしたーとかいうオチの場合だ。シンジはまず無い。
ま、詰まる所…
「…シンジ」
「な、何?コウ」
この人に聞くのが一番早いかなってとこです。

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「…」
「…え」
しまった。これは考えてなかった。
シンジの説明を要約すると、『原因は二人にあり』。
即ち葛城サンとサキだったり。
何でも葛城さんからの連絡で僕が帰る事を知り『何か盛大なお迎えすれば喜んでくれるかも』と吹き込まれて暴走してレイすら巻き込み…
「…」
「…僕も片棒担がされたよ」
テーブルには盛大な料理が。
…あのねぇ、あんたら。
「ぱーてぃー…してみたい…」
へ?
「…レイ?」
「あ、綾波?」
「サキもしたいー!」
「碇君とコウ君の生還ぱーてぃー…」
予想外その三。

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と、いうわけで、
「…では、皆の生還を祝って」
何故かレイが音頭をとって、
「…かんぱい」
「かんぱーいっ!」
「乾杯っ!」
「か、乾杯…」
「かんぱぁいっ!」
「あ、か、乾杯っ」
「ん…乾杯」
「カンパーィ!」
「えと…乾杯」
「あはは、かーんぱーい!」
カンパイ・スタート。
葛城さんにトウジにケンスケ、更にはヒカリを招待したところ、気付けばゲストだけで6名、計10名が我が家にいた。
丁度良い。ケンスケから良い店を聞くとしようか。
「…ケンスケ」
「ん?」

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パーティー翌日、学校。
レイは、困惑していた。
(この感情は、なに)
不安?違う。
恐怖?違う。
寂しい?違う。
(ちがう…全部近い…でも、違う気がする)
レイは、自身の感情が分からなかった。
もっと…もっと強い、別の感情のような───
(この感情は、なに)
頼みの綱足るコウはいない。
朝から本部詰めなのである。

しかし『コウ』と言う単語がレイの脳裏を駆けた時、異変は起こった。

(顔面の血流量が大きく…)
心地よい気だるさが全身を包み、思考力すら奪いゆく。
(脈拍も異常…何故?)

レイは知らない。それが、レイの心に、レイの何もなかった心に、レイの、他人によってコントロールされた心に、
初めて、暖かい光が差した瞬間だった事を。

ちなみに後日、ケンスケの盗撮写真屋が繁盛したのは言うまでもない。

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初号機零式ケイジ。
赤木サンに改修の説明があるからと連れてこられた訳だが…
「どう?」
「…これ、零…式?」
「ええ。凄いものでしょ?」
目の前に居たのは、確かに零式だった。
「…ぐれー?」
…灰色の。
「もうまもなく仕上がるわ。それからね、塗装は」
未塗装ですかい。
しかし、そんなのはいい。問題は…
「…でか」
両肩部ウェポン・ラックがデカい。
「冷却フィンを兼ねているの。今度からナイフは二本、ニードルは倍増よ」
解説は続く。
「凄いのはここから。あの噴射口が見えるかしら?」
「…はい」
「液冷用の溶液は二種類、増設した方ははアンビリカルケーブルから供給するわ。バッテリーの代わりに冷却液タンクを入れてあるけど、容積には限界があるわよね?」
「…つまり?」
「ケーブル供給の方は液化窒素なの。気化したそれら…つまり窒素を噴射するのよ。たいした推力じゃないけど、機動の補助にはなるわ」
ちゃんと前面にもあるわよ、とのこと。確かにそれらしき穴があったような。
ただし、と続く。
「使いすぎは禁物、タンクが空になれば当然使えないわ。それにノズルは可動じゃないの。うまく使って」
ちなみに、装甲が壊れたら?
「ノズルが壊れたら推力が無くなるわ。気をつけて頂戴」
…はーい。

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作戦、決行。
シンジを襲った連中が誰であれ、恐らく多数。間違い無く、次は僕だ。
手段は周到だ。
恐らくサイレンサー付きの銃に目立たない装備。ファイタースイーブの要領で護衛を排除、増援が来ない内に作戦完了若しくは撤退。
ガスガンを装備、A.T.フィールドを駆使しても…
いや、たとえ死んでも構うまい。
死ぬのは怖い。
だが、かえってその方が良いのかもしれないのだ。
僕がうまく話せないのは、世界に拒まれるからと僕の中の僕は言う。

出来ることはやろう。
過去も未来もともかく、今、たった今、
ボクハココニイルノダカラ。

:::::::::::::::

ノートを起動した。
クラックしたクライアントを有効にし、無線傍受モードに入れる。
サーチ…ネルフが8、民間が6、あとはラジオやらテレビやら。
民間を傍受する。ラジオその他はあるまい。逆探から即逮捕だ。
ノイズ。暗号化済み?
…当たりだ。
しかし、このタイプは知らない。まあ当然か。
解析。
と───データに規則性?

しまった。ダミー…!

チャンネルを切り替える。駄目だ、ハズレか!
次…これもダミー、ちくしょう!
次々に切り替える。最後の一つ───暗号化済み、規則性無し。本命だ。
解析───…?
感度が?
ジャミングか───!?

 ぞわり 。

「…!」
一瞬だった。
右に身を躍らせた半瞬後、左脚のあった所を何かが三つ駆け抜けた。

何か?

───銃弾だ

「…っ…!」
A.T.フィールド、展開。
跳弾。
味方なら誰でもいい、誰でもいいから誰か来い…!
───A.T.フィールドを探知してくれ
唯一の武装───Beretta M92SB-F(M92F)ミリタリー・モデル ガス・ブローバック・ガンのカスタムタイプ"TACTICAL MASTER"の改造型、命名"TACTICAL MASTER + : K.Nagisa Custom"───を抜き放つ。
マガジンに、A.T.バレットを発動。
気配は───六。
「…疾れ」
一射、二射三射。
一人。速い。三連射してようやく一人だ。
L,E,S,を二つ、飲み込む。
どう考えても大ピンチ。
と───何かが───手榴弾?
…手榴弾…街中…目的は拉致っぽい…
「…"F"?」
ヤバい。
"F"───強烈な光と音で対象を行動停止に追い込む非殺傷型手榴弾。
防御…光、音を遮断。
伏せる。
目をきつく閉じ、自らをA.T.フィールドで覆って空気を遮断。目は上から手でも覆った。
A.T.フィールドは震えない。
だが、ココロに響いた爆音がF弾の起爆を報せた。
収まった───

今。

A.T.フィールド解除、A.T.バレット再発動、射撃。
「ぐッ───!」
「…っ!?」
即座に飛び退き待避。射線の回避を最優先。
四連射。
ハズレ、右肩、左脇腹、違う奴の胸。悪く無いさ。
無力化、三人目。
「コウ君退がれ!」
───?
敵の頭が砕ける。
銃声?
デカい音だ。"ハンドキャノン"ことデザートイーグルか?特殊部隊がそんな物を───。
「…末…次、さん?」
保安諜報部 諜報局 諜報二課、末次 タカアキ 一尉。
24歳という若さながら一尉で僕の警護主任。
───救援。
ざっと自分を見る。
傷は───コンバット・ハイで痛覚が死んでいるなら別だが───無い。
大丈夫、と笑いかけた。

その時、体が、ビリ、と震えた。

───僕はいつ、殺戮人形(キリングドール)になったんだ?

だって、おかしいのだ。
───死体を目にして、平気だなんて
だって、おかしいのだ。
───対人射撃を繰り返して、笑えるなんて
だって、おかしいのだ。
───ヒトを殺しておいて、平静を保てるなんて…!

おかしい。

おかしい。

おかしい。

オカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイ───

手にした銃が、救いに思えた。
───だから、自分にトリガーを引く

紅い銃弾は、当たらなかった。
白い肌に痕も残さず、僕の意識ごと溶けて消えた。

───自分殺し、かい?

末次一尉の声の代わりに、"もう一人"の声が響いた 。

:::::::::::::::

目覚めたのは、意識だけだった。

「まただね」

───状況も同じ、か。気が利かないな

「まあね───しかし君は───馬鹿かい?」

───ヒトを…使徒じゃない、ヒトを殺したんだぞ!?死にたくも───

「ねえ」

ぞくり。

黒い冷たい恐怖が、身を包む。

「君が死んで、どうなるの」

ぞくり。

「零式とシンクロできるのは、"一人目"の血を引く君だけなのに」

逃げるのかい?

───何だよ、なんなんだよ

「何がだい?」

───何だよ、"一人目"って!?じゃあ僕はなんなんだよ!?

「…覚えていないのかい?」

───何をだよッ!?

「まさか───そうか、そういう事か、判ったぞ薫───…!!」

"もう一人"がそうごちた時、意識は、光に呑まれた。

:::::::::::::::

「レイ、聞こえるか?」
「はい」
第二実験場。
二度目となる起動実験の、会場である。
「これより、零号機起動実験を行う。第一次接続、開始」
「主電源、コンタクト」
リツコがキーを叩く。零号機に、電力が流れ込み始めた。
「稼動電圧、臨界点を突破」
「了解。フォーマット、フェイズ2に移行」
マヤの報告にリツコが返し、レイが接続を開始する。
───エヴァが、語りかけてくる?
「パイロット、零号機と接続開始」
「双方向回線、開きます」
「パルス及びハーモニクス正常」
レイの感じた異変をよそに、起動シークエンスは粛々と進む。
───これは、なに
「シンクロ問題無し」
「オールナーブリンク終了、中枢神経素子に異常なし」
「再計算、誤差修正なし」
「チェック2590までリストクリア」
「絶対境界線まで後2.5、1.7、1.2、1.0、0.8、0.6、0.5、0.4、0.3───」
暴走か、起動か───その境界が近づく。
───そう、そうなのね…
「───0.2、0.1───」
固唾を呑む職員たち。
錚々たるメンバーだ───コウとシンジを除く主要メンバーが揃っている───と、レイは思う。
───あなたは、わたしとおなじ───
「突破。ボーダーライン、クリア!」
「零号機起動しました!」
声が聞こえる。
起動、成功───
事務的に、言葉を紡ぐ。
「了解、引き続き連動試験に───」
ベルが鳴った。副司令が受ける。
───嫌な予感が、する
「碇、未確認飛行物体が接近中だ。恐らく第伍の使徒だな」
「テスト中断。総員第一種警戒態勢」
使徒。
心が揺れた。
「零号機はこのまま使わないのか?」
「まだ戦闘には耐えん。初号機は?」
「380秒で準備できます」
リツコが応える。
───出撃、無し?
「出撃だ。零式は?」
「最終調整がまだ…どのみち、パイロットの意識が回復していません」
───コウ君が!?
心が更に揺れる。
「そうか───レイ、再起動は成功した。戻れ」
「…」
返答は、返せなかった。

:::::::::::::::

第七ケイジ。
初号機は、発進準備に掛かっていた。
「目標、塔ノ沢上空を通過」
シゲルがそう告げる。
マップには、塔ノ沢を通過した第伍使徒───"5th Angel"のアイコンがあった。
「初号機、発進準備に入ります。第一ロックボルト外せ」
ケイジに声が響いた。
「…解除確認。アンビリカルブリッジ移動!」
ブリッジが動き出す。
「了解。アンビリカルブリッジの安全を確認…定位置に到着」
「第一・第二拘束具除去開始!」
「1から15までの安全装置解除…確認!」
「内部電源、充電完了。外部コンセントに異常は確認されません」
発進準備は進んで行く。
「目標は、芦ノ湖上空へ侵入!」
「―――了解。射出口はCブロック・ルート90を選択します」
「了解!エヴァ初号機、射出口へ!」
初号機が移動させられる。
「Cブロック、ルート90…ゲート8、スタンバイ」
「進路クリア!オール・グリーン!!」
緊張が高まる。
声が響く。
「発進!」
が、次の瞬間。
「目標内部に高エネルギー反応!」
「何ですって!?」
「円周部を加速、収束していきます!」
「まさか!?」
リツコの驚愕。
「駄目、避けて!」
「えっ?」
ミサトの叫びは───無駄だった。
「あぁぁぁぁッ、うわぁぁぁぁぁぁァ!!」
「シンジ君ッ!!」
泡立つL,C,L,の中、シンジが苦悶の声を上げた。
コウは───まだ、目覚めない。