第七ケイジ。
初号機は、発進準備に掛かっていた。
「目標、塔ノ沢上空を通過」
シゲルがそう告げる。
マップには、遠野沢を通過した第伍使徒───"5th Angel"のアイコンがあった。
「初号機、発進準備に入ります。第一ロックボルト、外せ」
ケイジに声が響いた。
「…解除確認。アンビリカルブリッジ移動!」
ブリッジが動き出す。
「了解。アンビリカルブリッジの安全を確認───…定位置に到着」
「第一・第二拘束具除去開始!」
「1から15までの安全装置解除…確認!」
「内部電源、充電完了。外部コンセントに異常は確認されません」
発進準備は進んで行く。
「目標は、芦ノ湖上空へ侵入!」
「───了解。射出口はCブロック・ルート90を選択します」
「了解!エヴァ初号機、射出口へ!」
初号機が移動させられる。
「Cブロック、ルート90…ゲート8、スタンバイ」
「進路クリア!オール・グリーン!!」
緊張が高まる。
声が響く。
「発進!」
が、次の瞬間。
「目標内部に高エネルギー反応!」
「何ですって!?」
「円周部を加速、収束していきます!」
「まさか!?」
リツコの驚愕。
「駄目、避けて!」
『えっ?』
ミサトの叫びは───無駄だった。
『あぁぁぁぁッ、うわぁぁぁぁぁぁァ!!』
「シンジ君ッ!!」
泡立つL,C,L,の中、シンジが苦悶の声を上げた。
コウは───まだ、目覚めない。

X-Evangelion
=闇に消えるセカイ=

第六話 決戦、第3新東京市
- How is Rei's heart? -

「戻して、早くッ!」
「り、了解!」
外装ドロドロの初号機が回収される。
モニターの八面体を睨むミサトの視線には、憎悪がにじみ出ていた───

「…ッ!」

最悪の目覚めだ。
いくら夢でもあれは無いだろあれは。おもくそシンジ撃たれてるし。被害はどう考えても原作以上だし。外装ドロドロ中ボロボロ。
───もしかして正夢?予知夢?そんな能力付いちゃったとか?まぢ?勘弁してくれ。誰か否定してくれぃ。
「コウ君?入るわよ」
ミサトさん…だな。
気配は二つ。片方はリツコさん、或いは医者だろう。じゃなきゃ日向さんに大方違いない。
「…どー…ぞ」
ドア───というよりオートハッチといった方がしっくりくる逸品が開き、二人───ミサトさんとリツコさんだった───が入ってくる。
ミサトさんの手に書類、リツコさんにもやっぱり書類。
…その心は?
すんません、さっぱり。
「司令よりの通達を代読。渚 コウ特務三尉」
つーか何、ミサトさん軍人モードですか。
「…はい」
「本日現時刻を以って、戦術作戦部作戦局作戦1課EVANGELION小隊を創設。同隊隊長に渚特務三尉を任命する」
うわぁ。
何?エヴァ小隊部署化して僕が隊長?まぢ?
…書類仕事来るな。絶対。
給料増やさせちゃる。基本給増だけじゃ済ません。絶対。使用制限額その他もまとめて引き上げさせてやる。
「…エヴァ…小隊、長…拝命、了解」
「リツコ、あんたもあるんでしょ」
「もちろん。司令よりの通達を代読。戦術作戦部作戦局作戦1課EVANGELION小隊長渚三尉は現時刻を以って、技術開発部技術局付きオブザーバーの兼任を命ずる」
了解と呟きながら頭を抱えてしまった。
…最悪だ。
仕事一杯になるだけでなく技術局付きオブザーバー=守秘義務有り=何時でも拉致れる口実。
あああ、さよなら僕の青春…
「でも凄いわねーコウ君」
こりゃ給料凄い額になるわよとミサトさん。
「高給取りね、コウ君」
「…は…はは…」
「…コウ君?」
「…は、は…ははッ!」
バカみてぇだ!
たかがA.T.フィールド使えるだけの、この世界の原作者ごときにこんなバカな警戒なんて!
「…っく、あはッ…!」
ホント、バカみてぇだ。

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で、とりあえず退院っつーか召喚みたいな感じで二人に連れられ本部へ。
で、やっぱりオートハッチって名前のがしっくりくるドアの横には…
[EVANGELION小隊執務室]
…まぢですか。
しかも何、その下には
[兼・同隊待機室]
中を見たら…
執務用(?)机その他セットに応接セット、ロッカー、ミニキッチンに壁面モニタに冷蔵庫etc…と、奥へ続くドア。
ドアには…[仮眠室]…って仮眠室ぅ!?どんだけ待機やら仕事やらさせるつもりだよ…
「…凄…」
「当然じゃない、管理部に直談判したんだから」
「…」
「ミサト…あなたね…」
…あんたバカだよ。そんな時間あるならまず日向さんの負担減らせ。もう可哀想な域だから。
言っても無駄だろーから言わんけど。
「さー、ブリーフィングやるわよーっ!」
「その前に状況の説明が要るでしょ」
かくして、赤木さんのため息と共にEVANGELION小隊長の初ブリーフィングが始まった。

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「───と、いう訳なの」
…勘弁してくれ。
「…」
夢(?)の通りだった。
起動実験してたら使徒襲来、テスト中止して初号機発進。ちなみに起動実験は成功。
で、射出上昇中にラミエルがチャージ、地表到達、初号機被弾。
初号機のダメージは(コアこそ平気だったが)酷く、ラミエルのドリルシールド貫通に修理が追い付かない程とか。
でも使徒は殺さないとマズい、エヴァが無い、仕方ないから00(零号機)と01X(零式)仕上げて使おう。
…やめてくれ。
真面目にきついって。
しかも何?あれ冗談抜きで予知夢かなんか?
…おいおい。
「…で、狙撃…?」
「そ!戦自からぶんど…じゃない、借りてきた陽電子砲をリツコが改造してA.T.フィールドごと使徒を破壊するのよ!」
「…エネルギーは?」
「日本中から集めるそうよ」
まぢかよ。
あれ?周波数は?
…あ、セカンドインパクトの時ヤバかったから50で統一したんだっけか。
「作戦名は"ヤシマ作戦"!」
「精度その他の問題から、コウ君が砲手を担当。レイが大型シールドで防御役よ」
決行は午前0時、か。
これは避けたい。
───どうしよう。

X-Evaにおける作戦はこうだった。
まずウィング・キャリアーを用意。初号機を搭載、発進し、ラミエルがぶっ放して来ない距離を保ちつつ上昇。
適当な高度まで上昇したら真上に移動、降下、A.T.フィールドを中和しつつ重力加速のエネルギーをかりてプログナイフで一撃離脱。
加粒子砲を潰すのだ。
最悪でもA.T.フィールドを殺げたなら御の字。更に凄いのは、そうした上でヤシマ作戦を行う事だ。
つまり、零号機でSSTO改造シールドによる防御、零式+ポジトロン・スナイパー・ライフルで狙撃を行うのだ。二重の作戦である。
あの作戦では初号機が荷粒子砲を封じきれず、使徒の応射は同軸上の零号機をシールドごと活動停止させたが、直後零式の狙撃が正八面体の中心を貫きコアを潰した。
しかし今回は二機。
ライフルを狙撃砲台にするのも面白そうだが、精度的に見て厳しいだろう。
…いや、『東洋の奇跡』赤木博士率いるネルフ本部技術開発部だぞ?いけるんでないか?
…そうだな。よし。
僕のPDA。
会話が上手くいかないからつけてみた、新機能。
今こそ出番だ。
<<異議アリ>>

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結局、ヤシマに決まった。
ウィング・キャリアーの準備にはそこそこ人手と時間を要し、そしてそんな余裕は無いとか。
<<シカシセメテ航空支援程度ハアッタ方ガ>>
「そうよねー…航空隊かぁ」
「キャリアーの護衛兼エヴァの火力支援、かしら?」
別に航空隊無しでもそんな問題は起こらない。
しかし、
<<ハイ。特ニ火力ニツイテハエヴァ及ビ兵装ビルダケデハ不足ト考エマス。使徒ガ第三新東京ノ地上ニ現レルトハ限リマセン>>
そうなのだ。遠隔地も海もあるし宇宙だってある。
「瞬間、心、重ねて」で一旦退却する時なんかも楽になる。支援火力は無いよりあった方がマシだ。
ついでに、荷物(=エヴァ+α)降ろしたキャリアーは指揮機にもなるだろう。或いは簡易AWACSとか…似たようなもんか?
「そーよねー…」
<<頭ヲ下ゲルノガ嫌ナラ自前デ持ツ他アリマセンヨ?>>
「そーなのよねー…」
自然、視線は赤木博士へ。
あ、ちょっと引いた。
「リツコぅ」
「…む、無理よ?間に合う訳無いわ」
<<今回ハ無クトモ構イマセン>>
「…ちょーっと司令にかけあってみようかしら」
…後日、マジでネルフ航空隊が結成されるとは…夢にも見なかった。

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「これがエヴァ専用長射程陽電子砲、ポジトロン・スナイパー・ライフル。戦自が開発した自走陽電子砲、そのネルフ仕様…になる予定の、陽電子砲」
リツコさんの言う通り、今目の前にひとつの陽電子砲。ひとつの朝ならいいのに。物騒な。
「貫けると思う?オブザーバーの渚特務三尉」
計算結果は出てる筈。
つまりは───探り、か。
「…五分五分」
「何故?」
指立てその一。
「…エネルギー、絶対量…」
確か、使うのは1億2千万kw。計算上、ラミエルのフィールドをようやっとブチ抜ける"かも"なエリア下限ギリギリのラインだった筈だ。
即ち厳しいって事だろう。つーか何だ、かなり厳しくねーかそれ。
指立てその二。
「…陽電子の…減衰」
陽電子は反物質の一つだ。物質と衝突し、その質量を丸ごとエネルギー化する。
つまり、空気にすら反応して消滅、減衰してゆくのだ。
もっとも、一部が反応することで幕のような状態の部分が出来て他の反応を防ぐというなんたら効果によって減衰は一部にとどまるのだが。
指立てその三。
「…陽電子の…特性」
陽電子砲が強力なのはそのエネルギー化現象───"対消滅"に因るものだ。A.T.フィールドか物質とは考えられないし、"記憶"にもそうある。
特性が活かせないのは痛い。
…ってか、まず銃身(むしろ砲身か…)その他が耐え切れるのか?
僕がいるもんでエヴァが増え、それに合わせるかの如く状況がキツくなってるような…
つーかさ、対消滅って一種の核融合反応だったよな?放射能危なくないか?
…聞いてみたら「こういうのは半減期が短くなるように調整してあるのよ」だそうで。
そりゃそうだよな、じゃなきゃN2だって使えないもんな。

五分五分とは、言った。
原作では、成功した。
X-Evaでは、作戦が違った。
この世界では───どうなる?

   …───アア、キモチワルイ

:::::::::::::::

未来の、それも近い未来の話をしよう。
今のところ、この世界はどうなっているのか?
X-Evaと同じか?否。
では原作と同じか?やはり、否。
ではどちらに近いか?
原作だ。
そうなると、未来は───X-Evaが未確定だからどの道原作をとるのだが───原作に近くなり易い。即ち、あれだ、赤い海の畔でって感じのバッドエンド。真面目にやめてくれ。
観る分には良い。其処らの馬鹿っぽいハッピーエンドよりバッドエンドのが好きだから。でも経験するのはハッピーエンドのが良いに決まってる。
話が逸れた。
つまり、現段階ではバッドエンドになり易い、ということ───なんだろう。
これはあくまで推測に過ぎないし、仮定だらけで話にならない。第一、"近いからなりやすい"なんてドが付く程アホだ。
…でも。
怖い。
ただ、怖い。
未来が、あるいは…

自分が。

:::::::::::::::

「…レイ」
「…何?」
書類を差し出す。
「…作戦、スケジュール…」
「…わかったわ」
あ、そうだったそうだった。
もう一枚とりだして咳払い一つ。
「…司令、の…通達、代読。綾波、特務…三尉」
「…はい」
…あー読みづらい。
あとはPDAでやるか。
<<現時刻ヲ以ッテ戦術作戦部作戦局作戦1課EVANGELION小隊ヘ転属ヲ命ズル>>
「…?」
「ふくしょー…は?」
「あ…現時刻を以ってEVANGELION小隊へ転属、了解」
合成音声に戸惑ったのか。
…何か可愛いなちくしょー。
しっかしまぁレイも表情あれば"お人形"じゃなくなんだけどな…
しかし少なくともレイの評価toゲンドウを…下げるのは…無理か?
ならばせめて評価to僕あげないと完全に原作通りに…

くんくん。

「…コウ君?」
引っ張られてる…?シャツか?
辿る。
裾、手…
「…レイ?」
「…行きましょ」
へ?
「…何に?」
「着任に」
あ、そうかそうか。
言ってなかったよね、うん。
「…レイ」
「…何?」
「…たいちょー…僕、だから」
「…!…了解…失礼しました」
…成程。髭め、これも狙いの内か。
そうはさせん。
「…いつも、通りで…いいから、ね?」
「…わかったわ」
くくく、髭め。
シナリオの壊し方、見極めるのは作家の得意技なんだよ?
…ていうか綾波サン、色々と勉強しまくっとるのね…礼儀とかその他。

:::::::::::::::

ジオフロント。
直上には要塞都市、内部にはネルフ本部を擁する巨大な地下空間。
そしてそこには、採光ビルから取り込まれる陽光に照らされた、心地よい自然公園が広がっていた。
「みゃうっ」
そこに猫はいた。
黒い、仔猫。
自然公園の片隅に佇む僕を見上げ、一声、鳴いたのだ。
直感ざわめく。

何か、違う。

───ただの猫じゃ、ない?

黒。
仔猫。

もう一声鳴いた。

「みゃうっ」

───紅い、目。

紅?

「…おい、で?」
「みゅぅ」
仔猫は伸ばした手に擦り寄り、甘え始めた。
抱き上げる。
「ふにゃう」
「…かわいー…」
近くのベンチまで移動し、胸の上に下ろす。
「…親、は?」
「みぃー…」
まさか───…?
立ち上がり、周囲を見回す。
居た。
───やはり、か。
親猫は死んでいた。
毒か、或いは病か。
猫がその親「だったもの」に擦り寄り、舐める。死を受け入れられない───或いは、理解出来ないのか。
「…みぃ」
「…」
親猫の死体、その頭部に触れる。
まだ、温かった。
親猫の死体、その心臓を探す。
拍動は、なかった。

死。

親猫は、完全に、死んでいた。
綺麗な死様だった。
だが…引っ掛かる。
この猫、恐らく餓死ではないのだろう。
哀しげに一つ鳴き、指に擦り寄り甘えてくるこの仔猫───もし本当に、親がこの故人ならぬ故猫なら、それが証拠。
この仔猫、恐らくは離乳期とみた。
もし仮に親猫が餓死したのなら、その前に授乳出来なくなるはず。そしてまだ授乳を多少なりとも要する仔猫共々…餓死。
そもそもこの死体、それほど痩せ細っては…
ん?
これは───…!?
親猫の死体、右後足。
鈍く光を撥ねる、輪。
輪には───刻印。
[314209-01]
よくみれば仔猫にも───[142095-06]。
「…」
まるで「白い家」───そうか、ピンと来た。
生体実験。
それなら分かる。生体実験の副作用なんて何があるか分かったもんじゃない。恐らくはこれ、投薬パターンか何かだろう。
…せめて。
地を掘る。
地を掘る。
地を掘る。
ええい面倒だ、地中にA.T.フィールド、擦り鉢状…ばこっ。
穴。
リングを切断。A.T.フィールドってやっぱ便利。
死体を穴へ。
埋める。
埋める。
埋める。
リングを埋めた穴の上へ。
…と、着信。
ちゃーちゃらっちゃっちゃちゃーらっちゃっちゃっ…サウンドトラックの「MISATO」か。
ってつまりミサトさんから電話って事ぢゃんっ!?
「…はい」
個別指定しといてよかった。
『コウ君』
「…はい?」
『A.T.フィールド観測されたんだけど…コウ君のよね?』
穴掘りとリング切断に使ったのが引っかかったか。まあいいや。致し方あるまい。
「…ん、そう…です、よ?」
『分かったわ。そろそろ出発だから、準備しといてねん』
「…りょー、かい」
切る。
「…おいで」
「みゃうっ」
何故か僕になつく仔猫を腕に抱き、本部へと戻った。

:::::::::::::::

「…レイ…」
「…なに?」
「…なん、で…エヴァ、乗るの?」
「…絆だから」
「…司令、との?」
「…みんなとの」
「…そう、か…」
「…コウ君は?」
「…わから、ない」
「…?」
「…本、来…ここに、いない、存在…だから」
「…!」
「…くす…えい、ぷりる…ふーる」
「…今は夏よ」
「…ここ、では…ずっと、ね」
「…」
「…いつか…」
「…?」
「…いつか、全部、話す」
「…」
「…だから…今は…生きよう」
「…貴方は死なないわ…」
「…」
「私が護るもの」
「…なら、僕は…」
「…そろそろ時間よ、行きましょ…」
「…そう、だね」
「…」
「…」
「…また…ね…」
「…うん、また…ね…」

なら、僕は、敵を撃つことで君を護る。
そう言おうとした言葉は、時間を知らせるレイのこれにかき消された。
いや、言えなかったのかもしれない。
僕には、重すぎる言葉だから…
足元に猫がいた。
僕を見上げて一つ鳴いたその猫は、不吉と死の象徴の筈なのに―――成功を、予言しているような気がした。

:::::::::::::::

午前零時の報が鳴った。
『作戦スタートです』
日向がミサトに告げた。
『コウ君、日本中のエネルギー貴方に預けるわ』
「…はーい」
『第一次接続、第407区まで送電完了、続いて第408区から第803区までの送電を開始します』
辺りを包む地響きを、エヴァの中で聞いた。
『ヤシマ作戦、スタートっ!!』
声が響く。
『電圧上昇中、加圧水系へ』
『全冷却機出力最大へ』
『陽電子流入順調なり』
「…ねぇ、ノルン…」
気分を紛らわそうと、ノルンに話しかける。
<<…何?>>
『零式、内部機関からの供給を開始』
「…了、解」
ライフルの柄を心持ち強く握る。
ノルンが、S2のエネルギーを強引に電力へ変換して送る。
『温度安定依然問題無し』
『第2次接続!』
『全加速器運転開始、強制収束機作動!』
問いかける。
「…成功、する…かな?」
『第三接続、完了』
『全電力、ポジトロンライフルへ』
<<…大丈夫…きっと>>
返ってきた答えは…震えていた。
『最終安全装置、解除』
『撃鉄、起こせ』
撃鉄を跳ね上げる。
鈍い音が響いた。
『地球自転誤差修正、プラス0.0009』
『電圧上昇中。発射点まで10秒』
後…少し。
でも、すんなりとはいかない。
行かせてくれる筈が無い…
『目標に高エネルギー反応!』
『なんですって!』
『ライフルは!?』
「…いけ、ます」
さあ、どうなる…?
『発射!』
トリガーを引いた。
V字のマズル・フラッシュが輝き、光の奔流が疾る。
紅と青の光条が交錯し、螺旋を描いて落ちる。
それはそれでなかなか綺麗な光景だったが、それどころじゃなかった。
ヘッドギアを跳ね上げ状況を確認。
ポジトロン・スナイパーは…!?
「…!」
『変圧機群が!』
変圧器が火を噴いていた。
だめだ、使い物にならん。S2からの供給は生きているが…足りる筈もない。
「…」
『作戦失敗…!?』
「…ノルン、フォロー、よろしく」
 <<わかったわ>>
出した声は、ずいぶん落ち着いていた。
ライフルを捨て、ナイフを抜く。
『零式、プログナイフを装備!』
『コウ君!?』
「…こちら、零式…」
腿に、脹脛に力を籠める。
窒素、噴射用意。
「…吶喊、します」
跳んだ。
走るのではなく、前方への跳躍。
景色が流れる。
一瞬背中を引かれたが、すぐに戻る―――ケーブルが外れたのだ。
奥歯を噛み締める。血液が脳へ行かない。くらり。ブラックアウトの前兆。
『ちょ、コウ君!』
八面体まではまだある。
張っていたA.T.フィールドが中和されたのを感じる。来る。加粒子砲。
使徒の応射を横っ飛びにかわし、未だ鈍く輝くスリットを狙ってナイフを構え―――投げた。
プログナイフはコンデンサで駆動されている。エヴァからの電流をコンデンサ経由で回しているのだ。
コンデンサの蓄電能力はプログナイフの駆動時間2秒分。充分だ。
当たる。刺さった。だがそれだけだ。でもそれでいい。
粒子が噴き出す。
だが、予想もしなかった抵抗―――充電途中だったのか何なのか、いっそこの際なんでもいい。
加粒子砲。

零式は―――僕とノルンは、その輝きを、正面から受けた。

そこからの記憶は、朧にしか残っていない。
憶えているのは、圧倒的な輝きと、熱と、少しの痛みと、ノルンの苦痛の声と、ココロに響いた激震と―――A.T.フィールドが破られたんだろう―――、駆け寄ってきた零号機が使徒に刺さっていたナイフを使い、止めを刺していた姿。
そして、蒼い女神の、悲痛な叫び。

:::::::::::::::

目が醒めたのは3時間後だった。
検査にも3時間掛かった。
怪我は無かった。即退院。
執務室で事務処理。小隊長と言うよりも作戦1課の事務処理係なんだろうか、結構な量。
まあきっと相当いい処遇なんだろう。100枚程度あった書類を1時間半強で片付けてからそう思った。
人影まばらな食堂で朝食。曜日の感覚なんて忘れていたが、そうか、今日は土曜日か。
さてどうしようか、と考えた矢先だった。
備え付けのインターホンが鳴った。
『綾波です…』
「…ん、どーぞ」
圧縮空気の如き音を立て、スライド式のドアが開く。
「…コウ君」
「…だい、じょーぶ…生きてる、よ」
「…」
そうか。
何をするにも気が乗らず、まるで暇を潰すかのように書類を整理したのは。
帰る気にもならず、食堂で朝食を摂ったのは。
すべて、まだこの時に、事が終わっていなかったからか…
「碇君もサキも寂しがっていたわ…帰りましょう」
「…レイ」
唐突に、レイに抱き付いていた。
自分すら驚くような挙動。
「…ありが、とう」
いつの間にか出ていたコトバ。
「…ゴメンなさい。こんな時、どんな顔をしたらいいのか…わからないの」
でも、これは、完全なる自分の意思で、紡いだコトバ。
「…笑えば…いいと、思うよ?」
自分は自分、まだ、そう思えていたころの話。
僕は、まだ僕だった。